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作品のできるまで2 「デザインと方法」


今回はやや専門的なお話もありますので、カルトナージュをされていない方には「?」な部分もありますがお赦し下さい。


頭の中で出来上がった作品の青写真は、「オリエンタルなキャビネットと屏風」。

使う織物は地が漆黒なのでどこか日本や中国など東洋の漆塗りの家具のイメージに通じたのです。

古い東洋のキャビネットタイプの家具には天板が本体より長くて上に物をディスプレイできるようにデザインされたものが多くあり、それに近いデザインにしてみようと思いました。

作品展ですのでサイズの制限もありましたが、なるべくこの織物の柄が生かせる表面積の大きなパーツがあるデザインということで「屏風」と、引き出しより表面積の大きな「扉」で開閉するキャビネットを作ることに決めました。

本体は四角の直線ラインですが、本体よりやや長い天板の両端は真っ直ぐではなく少し上にカーブしています。そのカーブをカルトナージュの手法、つまりカルトンで表現できるのか・・。


まずキャビネット本体を作るに当り、より家具らしさを追求するために通常なら2~3mm厚のカルトンを使って形を作るところを、3mmカルトンを3~5枚貼り合わせることにしました。

厚みを持たせることにより、よりリアルな「家具」に見せるためです。

(今回の作品展では「カルトナージュって紙で作るのでは?これって木でしょう?」と私の作品をご覧になってどなたかが話されているのを耳にしました)

何枚も重ねたカルトンの”板”を使うと当然作品がかなり重くなってしまうので今回はより柔らかくて軽いフランス製のカルトン「カルトンボア」を使うことにしました。

カルトンボアは値段はかなり張りますが、薄い紙を圧縮して作るグレーカルトンと違い、繊維が揃っていて柔らかくて切りやすい上に軽く、やはり特別な素材なのです。

何枚か貼り合わせても紙の繊維同士が馴染んで一体化しまるで一枚の板のようになったのは嬉しいことでした。


向かって左はグレーカルトン、右はカルトンボア。グレーカルトンの断面には圧縮して貼り合わせた層が見えます


同じサイズにカットして貼り合わせても、人間の手でしたことなのでわずかなサイズの誤差は生まれます。

生地を貼った時に凹凸があると美しくないので断面の凹凸はやすりで丁寧に削っていきます。

カルトンボアは柔らかいのでやすり掛けも比較的容易ですが、やはり滑らかな状態まで削るのはかなり根気の要る作業でした。カルトンボアの”粉塵”はかなり微細なので、作業用ゴーグルとマスクを着けて屋外で行います。


3mmカルトンボアの3枚重ね。貼り合わせた跡さえ見えません

そして天板の両端のカーブの方法を考える段になりました。

通常ならば薄いカルトンを少し湿らせてカーブさせれば良い話ですが、今回は天板も3mmカルトンの3枚重ね、つまり9mmの厚さなのでその方法は使えません。

結局平らな長い”板”の上にビゾーカット(角を斜めにカットする方法)した短い”板”を貼り合わせることに。

「ビゾーカット」は額装のマットの断面を45度にきれいにカットする手法で額装では専用のカッターを用いますがカルトナージュでは手切りで行うことが多いと思います。

特に今回は厚みがあるので手切りしか方法はありません。



ビゾーカットの横から見た断面画像(2.5mm厚カルトン)

柔らかいカルトンボアと言えどもある程度の長さのある9mm厚のカルトンを美しくビゾーカットすることの難しさ!

ここは何度やり直したのか自分でもわからないくらいやり直しました。ビゾーカットした斜めの断面が接着面となるため、とにかく端から端まできれいに一律のビゾーになっていなければ貼り合わせた時に安定しないのです。

失敗が続く中、途中で「もう、天板は平らでもいいんじゃない?両端がカーブしてなくても!」と悪魔の囁きが・・。

それでもやっと二枚のきれいにビゾーカットされた”板”を目の前にしたときは嬉しくて叫びたくなりました!「遂にやった~!」


積み上がったカルトンの”板”。これだけでかなり疲れましたがこれはあくまで最初の段階の作業でしかありません。

これを組み立てて(普通にカルトナージュの糊で貼り合わせ)布を貼る段階に進みました。




次回に続きます。


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